銀行ステーブルコインは「過大評価」:リップルCEO

「銀行発行のステーブルコイン」は「過大評価」と、リップルのブラッド・ガーリングハウスCEOは考えている。

リップルがシンガポールで開催中のXRPレジャー(XRPL)のカンファレンス「Apex 2025」での11日午前中最後のセッションに、ブラッド・ガーリングハウスCEOと同社プレジデントのモニカ・ロング氏が登壇。モデレーターが2人のキャリアやリップルとの出会いをステージの導入とした後、複数のテーマについて「過大評価か、過小評価か」という切り口で議論を展開した。

その中から、銀行発行のステーブルコイン、米ドル「以外」のステーブルコイン、ステーブルコイン法案、RWA(現実資産)トークン化についての議論を紹介する。

銀行発行のステーブルコインは「過大評価」

──(米国では)銀行がステーブルコインを発行する動きがある。「銀行ステーブルコイン」の評価は?

ガーリングハウス氏:「過大評価」だと思う。ある意味、銀行はすでにこのアイデアに取り組んでいる。例えば、(類似例として)JPMコインのコンセプトはすでに数年前から存在している。問題は、銀行が独自ステーブルコインを発行したとしても、他の銀行がそれを受け入れるかどうかだ。結局、中立的なプレイヤーが必要になる。

USDTを発行するテザー社やUSDCのサークル社はそうした役割を担っており、これからも成功し続けるだろう。そしてリップルが手がけるRLUSDにも非常にエキサイティングな可能性がある。

ちなみにリップルは一時、USDCの新規発行の20%を担っていたことがある。USDCの新規発行者として1位か2位のポジションにあった。だからこそ「私たちの顧客セグメント、特に金融機関向けユースケースにおいて、ステーブルコイン市場にもっと本格的に取り組むべきではないか」と考えた。

今、多くの人が、プライムブローカーのヒドゥン・ロード(Hidden Road)についての私たちの戦略を理解し始めているだろう。ヒドゥン・ロードは大規模な普及をけん引し、市場を拡大できる可能性を秘めている。ただし、テザー社やサークル社を倒そうとしているわけではない。

ロング氏:私の回答は「先行きに注目」だ。「ステーブルコインは一体、何種類存在することになるのか?」という問題があり、米ドル建てステーブルコインの発行者が増えれば増えるほど、流動性が複数の発行体、チェーン、流動性プールに分散してしまう。だが一方で、今後数年間で市場は何倍にも拡大し、多くの発行体が市場に参入してくるだろう。

銀行発行ステーブルコインは、特に大手銀行間で相互にネットワークを作り、銀行間決済を行うというユースケースが想定できる。既存の銀行間決済システムをブロックチェーンを使って効率化する取り組みだ。

私たちも初期には大手銀行と共同で「RippleNet」を推進した。銀行と関わってきた経験からも、効率性や透明性の向上に対する銀行のニーズは明確に存在していることを理解している。

ドル建て「以外」のステーブルコインの可能性

──ドル建て「以外」のステーブルコインをどう評価するか?

ガーリングハウス氏:現状、ステーブルコイン市場の90〜95%は米ドル建てステーブルコインで、USDTとUSDCが圧倒的だ。

だが、10年後の世界を想像してみると、米ドルが世界の準備通貨に占める割合は60〜65%程度になり、それに比例して、米ドル建てステーブルコインの割合も同じ水準に近づいていく可能性が高いだろう。

米国以外の国々は、ステーブルコインの普及によって自国通貨の地位が損なわれることを恐れているが、現時点では、そうした動きはあまり見られない。その理由には、決済手段としてのユースケースの意味が大きく、企業の財務管理を根本的に変える可能性があるからだ。

また自国通貨が不安定な国では、米ドル建てステーブルコインに対するニーズが高い。米ドルは過去5年間、インフレで25%も価値を下げたが、それでもおそらく、最も安全な通貨の1つだ。

RWAトークン化のトレンドは明白

──RWAトークン化は明らかなトレンドなので「過大評価か、過小評価か」の質問はやめて、これまでと何が違ってきているのか、リップルはどのように取り組んでいるかを聞きたい。

ロング氏:最大の違いは「規制の明確化」だと思う。時間はかかったが、過去になかったほど明確な状態になっている。例えば、ここシンガポールはMAS(シンガポール金融管理局)を通じて早い段階から規制の明確化を実現した。他の国々も同様に動き始めている。

直近では、米国でも政権交代を経て、法整備に関して大きな進展があり、勢いが加速している。金融機関で決済やカストディに携わる人たちと話をすると、彼らは本当によく理解している。つまり、RWAトークン化の価値提案を正しく理解していて、魅力的だと感じており、私たちのような企業と連携したいと考えている。

今までは、規制の不確実性がハードルだった。だが今は本当に転換点だと感じている。規制の明確化こそが、今、この瞬間を転換点にしている。

ガーリングハウス氏:「徐々に、そして突然に(slowly and then all at once)」という状況だ。

ステーブルコイン法案は「適正評価」

──では関連して「ジーニアス法案(Genius Act)」の評価は?

ガーリングハウス氏:「適正評価」だ。ステーブルコインに特化した法案で、もう1つの「市場構造法案(Market Structure Bill)」と並んで重要なものだ。後者は証券、コモディティ、通貨の定義の明確化を図る法案だ。2つが8月までに可決されることを願っているが、いずれにせよ、ワシントンの動きには勢いを感じている。

もちろん、どんな法案も完璧ではないが、「完璧さは完了の敵(Perfection is the enemy of done.)」という言葉がある。

ジーニアス法案が可決されない限り、大手銀行がステーブルコインを発行することはないだろう。仮にSEC(米証券取引委員会)などから前向きなシグナルがあったとしても、法案が通らなければ銀行にとってはリスクに見合わない。そしてそれは、業界全体にとっても良くないことだし、米国の競争力にとっても悪影響になると思う。

APAC市場:リップルにとっての位置づけ

〈シンガポールの金融街〉

──APAC(アジア太平洋)はしばしば、業界の明るい材料の1つとされている。この地域はなぜ注目されているのか? 今後もリーダーであり続けられるのか?

ロング氏:明確な規制を早期に整備したことで、私たちのような企業を多く呼び込むことにつながった。私たちは米国生まれの企業だが、今や送金ビジネスの40〜50%はシンガポール拠点を経由している。シンガポールのような国、そしてアジア全体として「先行者利益」は非常に強固なものだと思う。

もうひとつ、APACで言えることは「ペインポイント」が明確なことだ。さまざまな企業とクロスボーダー決済について議論すると、コスト、スピード、透明性が差し迫ったニーズとしてあがる。米国やヨーロッパと比べると状況が異なる。

ガーリングハウス氏:シンガポール、そして東南アジア全域にわたって、起業家コミュニティが存在することも重要だ。そのエネルギーは非常に力強い。韓国や日本での暗号資産の受け入れもご存知のとおりだ。こうした国々のコミュニティは新しいテクノロジーに積極的で、しばしば、テクノロジーにおけるリーダーであり続けてきた。APACは今後も発展し、リードを続け、早いペースでの普及が進んでいくと考えている。

一方で、米国が規制面でのリーダーシップを発揮するようになれば、多くの国々が米国の動きを注視するだろう。世界最大の経済大国がついにイノベーション推進・暗号資産推進の立場に転じたことから生まれる勢いを多くの人は「過小評価」していると思う。

|文・撮影:増田隆幸
※編集部より:本文を一部修正し、更新しました(14日20:58)