
「万博史上初」の全面キャッシュレス
人気の回転寿司店、夕方には大混雑となる公式売店はもちろん、会場内に設置された自動販売機まで、2025年日本国際博覧会「大阪・関西万博」の会場では現金は使えない。すべてキャッシュレス決済だ。
「大阪・関西万博」は、テーマに「いのち輝く未来社会のデザイン」を、コンセプトに「-People’s Living Lab – 未来社会の実験場」を掲げている。キャッシュレス決済は、コンセプトである実験場としての取り組みのひとつだ。
1851年、ロンドンで第1回目の万国博覧会が開催されて以来、会場内全面キャッシュレスは「万博史上初」という。Visa、Masterといった国際ブランド、交通系などの電子マネー、QRコード決済など約70種類のキャッシュレス決済に対応している。さらに独自の決済アプリ「EXPO2025デジタルウォレット」も用意されている。
CoinDesk JAPANでは、ゴールデンウィークに栃山記者が家族とともに会場を訪れ、ウォレット使用などの体験記をお伝えした。
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今回は、2025年日本国際博覧会協会でキャッシュレス決済と「EXPO2025デジタルウォレット」を担当した参事の谷川淑子氏と担当課長の梅田泰壱仁氏、「EXPO2025デジタルウォレット」の開発・提供を担うHashPortの代表取締役CEOである吉田世博氏に予想以上の来場者で賑わう5月末の万博会場で話を聞いた。

「EXPO2025デジタルウォレット」はWeb2とWeb3のハイブリッド
「EXPO2025デジタルウォレット」の利用状況については、5月20日、吉田氏が [万博開幕後1ヶ月間におけるEXPO2025デジタルウォレットに関する4つのデータ] と題して、Facebookに投稿。「万博開幕後1ヶ月間で、EXPO2025デジタルウォレット内においてweb3ウォレットを設定し、公式SBT(譲渡不可のNFT)を取得した方は301,669人でした」と記している。
関連記事:EXPOウォレット、開幕1カ月で30万人が公式NFT取得・利用率は約11.5%──HashPortがデータ公開
同期間の総来場者数に対して「利用率11.5%」という数字は、大きなハードルをひとつ超えたと言えるだろう。先日、CoinDesk JAPANも「暗号資産のグローバル普及率「10%」超へ──いよいよ「転換点」か」と題した翻訳記事を掲載した。
だが、吉田氏の投稿に対して、「ウォレットなのに決済の話ではなく、SBT?」と思われた方もおられるかもしれない。実は「EXPO2025デジタルウォレット」は、4つの機能を1つにまとめた、やや複雑な構造になっている。
大阪・関西万博の公式サイトでは、「本サービスは、サーバー管理型のWeb2、ブロックチェーンのWeb3の管理手法を用いたデュアル方式のウォレットアプリです。会期前から利用者に参加いただけるプログラムとして『つかう/ためる/あつめる』機能と『つながる』機能があります」と説明されている。

それぞれの機能を簡単に説明すると、以下の通りだ。
- 「つかう」機能「ミャクペ!」:万博独自の電子マネー
- 「ためる」機能「ミャクポ!」:オリジナル景品などがゲットできるポイントサービス
- 「あつめる」機能「ミャクーン!」:万博独自のNFTサービス
- 「つながる」機能「事業連携サービス」:SBT(ソウルバウンドトークン)を利用した万博の機運醸成サービス
万博のキャッシュレス決済と密接に関係しているのが、電子マネー「ミャクペ!」だ。QRコード決済、タッチ決済、さらには顔認証決済も可能になっている。
大阪・関西でキャッシュレス決済が進む?
日本のキャッシュレス普及比率は約4割と言われている。政府が掲げた目標を1年前倒しで実現したものの、世界の先進諸国と比べると低い。だがこの日、考えていたよりも多くの来場者で賑わう万博会場を眺めていると、「未来社会の実験場」のコンセプトどおり、少なくとも大阪・関西ではキャッシュレス決済がより浸透するのではないかと感じた。
実際、「ミャクミャクリワードプログラム」(後述)のステータスを上げるために、「ミャクペ!に課金して、日常の買い物に使っている」と語った来場者がいた。この来場者が「課金」と語ったのは、「ミャクペ!」に銀行口座からチャージしているという意味だ。
ちなみに、ステータスを最高ランクの「レジェンド」にまで上げると専用ラウンジが使えたり、ミャクミャクとの記念撮影「ミート・ザ・ミャクミャク」を楽しむことができる。

デジタルウォレットの「母」
「EXPO2025デジタルウォレット」について協会の谷川氏も「電子マネー、ポイントなどの従来的なシステムと、ブロックチェーンを使ったWeb3による事業連携サービスを組み合わせた革新的なアプリ」と説明した。
また、当日受け取った資料には「Web3領域を身近に感じていただき、理解促進を促し、日本のデジタル化推進を後押しすることを目的」「金融連携サービス(Web2、Web3)、事業連携サービス(Web3)を提供」と書かれていた。

上は、私の「EXPO2025デジタルウォレット」のトップページのキャプチャだ。「つかう/ためる/あつめる」と「つながる」を上部のタブで切り替える構造になっている。
かなりマニアックな話だが、Web2とWeb3で区別するなら、「つかう/ためる」(電子マネーとポイント)、「あつめる/つながる」(NFTとSBT)に分けた方が自然では? とWeb3メディア的には思ってしまう。
HashPortは「EXPO2025デジタルウォレット」のアプリ本体や関連サービスの共通IDを自社のアンホステッドウォレット基盤の上で提供している。自社のアンホステッドウォレット基盤上にあり、自らが手がける「事業連携サービス」と、連携する3つのサービス──「ミャクペ!」は三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、「ミャクポ!」はりそな銀行、「ミャクーン!」はSBIグループが提供)──を分けているのだろうか。
この点についてHashPortの吉田氏は、「アプリ本体とWeb3ウォレットを中心とした事業連携サービスは、万博終了後もHashPortが引き続き運営する予定であり、責任範囲を明確にするために分けている」と答えた。
万博という実験場で「Web3」が扱われていることについて谷川氏も「まさにこれから日本でいろいろなWeb3サービスのユースケースが生まれようとしている。万博の会期が終わった後には、決済やウォレット事業でのWeb3については、取り組みを整理して“レガシー”として残していく」と語った。
谷川氏は2021年に経済産業省から万博協会に出向。キャッシュレス決済を担う事業者の選定から始めた。HashPortの吉田氏は、谷川氏を「EXPO2025デジタルウォレットの母」と呼んだ。
スタンプラリーで万博に溶け込むNFT
資料に「Web3領域を身近に感じていただき」とあったように、会場では「NFT」という文字をあちらこちらで見かけた。前回の【万博体験記】でも伝えたように、大阪・関西万博では、各パビリオンを回って集めるスタンプラリーが大人気。「おすぞ 万博!」のPOPが飾られたスタンプ台で公式スタンプブックにスタンプを押す人たちを大勢見かけた。
そしてスタンプ台には一緒に「スタンプをNFTでもらおう!」と書かれたPOPも置かれ、QRコードが大きく表示されていた。取材時点で会場には205種類のスタンプが置かれ、うち202でNFTが取得可能になっている。
残念ながら、リアルにスタンプを押す人が圧倒的に多かったが、谷川氏によると「ミャクーン!」(公式説明では、「EXPO 2025 デジタルウォレット」サービスを通して発行されるNFT付きの画像)は5月30日現在で769種類、発行数は約189万に達しているという。

私も試しにNFTでスタンプを取得した。気になったのは、取得プロセスで、万博終了後はウォレットは使えなくなり、NFTにアクセスできなくなる旨の警告が表示されることだ(不覚にもキャプチャは取り損なった)。
実際、「ミャクーン!」の注意事項には「NFTは、SBIホールディングス株式会社が管理するウォレットにおいて保管」「NFTは、大阪・関西万博の終了後、EXPO2025デジタルウォレットアプリのサービス終了に伴い閲覧ができなくなります」と書かれている。
「せっかく集めたNFTなのに…」と思ってしまうが、さらに注意事項には「大阪・関西万博の閉幕後も引き続きNFTを閲覧できるように、SBI VCトレード株式会社にて準備を進めております」とある。
Web3領域で積極的な動きを見せているSBIグループが、万博という貴重な機会に獲得した潜在顧客をみすみす手放すことは考えにくい。リアルなスタンプではなく、あえてNFTを選択した人たちを万博終了後にSBI VCトレードでの口座開設へと誘導することは容易に想像できる。
ところで、スタンプラリーは日本人のモチベーションを刺激するのだろうか。私も取材のためにNFTを取得したのだが、その後に訪れたパビリオンが行列で入場できなくても、「とりあえずNFTを」とスタンプ台に行くようになってしまった。結局、この日だけで20個近くの「ミャクーン!」を取得した。
Web3が可能にした“リアル”な機運醸成
今、日本のWeb3シーンでは、Web3を活用して企業の枠を超え、1社では難しい取り組みを可能にするビジネス連携を図ろうとする動きがある。
ゲーム大手のコナミは2024年6月、NFTソリューション「リセラ(Resella)」を外部の企業が利用できるようにすると発表した。NTT Digitalは、ブロックチェーンをベースにした相互送客によって企業の共創を実現する「web3 Jam」を展開。2025年1月には22社と共同で第1弾キャンペーン「はぴウェル応援団」を開始している。
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「EXPO2025デジタルウォレット」の「つながる」機能である「事業連携サービス」も、Web3が実現する企業連携・共創という大きなトレンドの中にある。
例えば、万博開幕500日前の2023年11月30日からJR西日本と連携して「大阪環状線NFT駅スタンプラリー」を、昨年夏には大阪外食産業協会などと連携して「大阪の飲食店巡り ラリーキャンペーン」を実施している。

「事業連携サービスの運営者であるHashPortにノーコードで簡単にSBT(ソウルバウンドトークン:譲渡不可のNFT)が発行できるツールを開発していただいた。この画期的なツールにより、いろいろな事業者が自分たちで企画したSBTスタンプラリーを展開され、会期前から万博を盛り上げるさまざまなコラボが加速化したことにより、現在までに約80万のSBTが発行されている」と谷川氏は述べた。
当初、協会内ではWeb3は視野に入っていなかったようだ。谷川氏は「当初は万博会場内でのキャッシュレスと地域通貨の実証を想定していたが、Web3が加わったことで、会期前から会場外で万博の機運醸成に協力したいという事業者と連携できるようになるとともに、これまで万博にあまり関心がなかった人たちも含めて、デジタルウォレット利用者が会期前から万博関連イベントに参加できる仕組みを作ることができた」と明かした。
「事業者は顧客に万博をきっかけにプロモーションができるようになり、協会は事業者の先にいる人たちに万博に注目してもらえる。Win-Winの関係ができあがった」
人気急上昇中の「ミャクミャクリワードプログラム」
「EXPO2025デジタルウォレット」関連で今、盛り上がっているのが「ミャクミャクリワードプログラム」だ。先に紹介した公式サイトの説明には、「つかう/ためる/あつめる」機能と「つながる」機能(ミャクペ!/ミャクポ!/ミャクーン!と事業連携サービス)とあり、4つの機能しか書かれていないが、その下の図には右端に5つ目の機能として「楽しむ」機能の「ミャクミャクリワードプログラム」が紹介されている。

前述の事業連携サービスが主に万博開幕前の機運醸成目的ならば、ミャクミャクリワードプログラムは、万博開幕中の「盛り上げ施策」だ。公式サイトには「ミャクペ!やミャクポ!サービスの利用や万博関連イベント等へ参加することなどで得られる『経験値(エクスペリエンス=exp)』によってステータスが決定し、ステータス毎に特典を獲得できるプログラム」と書かれている。
ステータスはSTANDARD(スタンダード)からLEGEND(レジェンド)までの7段階、抽選でもらえる特典には「パビリオン特別入場」などがある。開幕前はあまり注目されていなかったが、来場者が増え、人気パビリオンの入場予約が難しくなるにつれて注目度が高まっているという。
谷川氏は「特別入場枠は口コミで広がって、応募が始まるとサーバーが重くなるくらいになってきた。この事業もここまで注目されるところまで来たかと感じる」と述べた。
その他、シグネチャーパビリオンの8人のプロデューサーが自らパビリオンを案内する「プロデューサーガイド」や特定のイベントの優先席などもある。なお、前述した「ミート・ザ・ミャクミャク」はレジェンドまで達すれば先着でもらえる特典だ。「EXPO2025デジタルウォレットパーク」内の専用ラウンジ「レジェンドラウンジ」も先着で利用できる。
ただし、レジェンドになるには相当の経験値(exp)が必要になる。その手前のDIAMOND(ダイヤモンド)は37万expだが、レジェンドは65万exp。だが、「ミート・ザ・ミャクミャク」は1日30組・4分の枠が20分程度で埋まるという。ラウンジも数組のレジェンドたちが利用していた。

「EXPO2025デジタルウォレットパーク」の設置について協会の梅田氏は「予定地が空いたので、我々が手をあげた。デジタルとリアルを融合させて、相乗効果でデジタルキャッシュレス事業を盛り上げていくことが目的」と語った。

Web3ならではのスケーラビリティ&フレキシビリティ
「ミャクミャクリワードプログラム」の経験値(exp)は、パビリオン内でのアクションや、設置されたQRコードを読み込むことでもゲットできるようになっている。
前述した「ミャクーン!」のQRコードの手前に、小さなQRコードがあることに気づかれただろうか。これは「ミャクミャクリワードプログラム」用のQRコードだ。2つのQRコードが存在して「ややこしい」とも感じるが、万博というきわめて大きな取り組みに、さまざまな事業者が関わる中では避けられないことかもしれない。なお、「ミャクミャクリワードプログラム」の経験値(exp)は、HashPortが運営する事業連携サービスで発行されるSBTを取得すると獲得できるが、「ミャクーン!」を取得しても獲得することができないので、これから会場を訪れる方は注意してほしいと吉田氏は述べた。

谷川氏は「リワードプログラムのプロデューサーガイドやパビリオン特別入場などは、1年半前から説明を始め、プログラムの意図や新しいサービスを提供することに共感いただいたパビリオンに協力していただいている。すべてではないが、主要パビリオンに参加していただいている」と語った。また、人気パビリオンは予約が取れず、入場に数時間も並ぶ状況となっている今、「パビリオンを外から見ることしかできなかった」という事態を解決する手段にもなっているという。
それがパビリオンに関する問題に答えると合格書SBTと経験値が獲得できる「EXPO パビリオン検定」だ。人気で入場が難しいパナソニックグループパビリオン「ノモの国」や「大阪ヘルスケアパビリオン」などで検定がスタートしている。

「既に9つのパビリオンで始まっているので、全部に合格するとステータスは“プラチナ”まで行ける」と吉田氏は検定の“お得さ”をアピールした。
また譲渡不能なNFTであるSBTを使っていることについて、「SBTは、ブロックチェーン上の行動履歴。万博にフォーカスした行動をしてくれた方に証明書を渡して、行動履歴に応じてベネフィットを増やしていくツールと考えている」と述べた。もし、この取り組みに譲渡可能なNFTが使われていれば、ステータスを上げるために高値で売買されるような事態も起こり得ただろう。
さらにこうした取り組みについて谷川氏は「万博に来て初めてデジタルウォレットを知った人でも、経験値を上げることができるようになっている」と付け加えた。
従来的なシステムに比べて、Web3/ブロックチェーンの開発可能性・柔軟性がミャクミャクリワードプログラムのスケーラブルかつフレキシブルな展開を支えているようだ。
「万博では、会場全体でデータ利活用を進めている。デジタルウォレッでも万博IDをキーとして来場者データの連携により、入場チケットや予約日の連携が可能になるなどデータ利活用を具体的サービスに活かすことができている」と谷川氏は述べた。
日本円をブロックチェーンに乗せる「EXPOトークン」
さらに新しい取り組みもスタートしている。大阪・関西万博での決済に、1トークン=1円として使える「EXPOトークン」だ。
▶関連記事:万博の決済に利用できる「EXPOトークン」発行──1000万円分のエアドロップも予定:Hashport
「EXPO 2025 デジタルウォレット」の「よくあるご質問」によると、EXPOトークンは「万博関連イベントへの参加やアプリ内のキャンペーン、お友達紹介プログラムなどを通じて獲得」できるが、「購入」はできない。また「EXPOトークンを直接日本円に現金化することはできない。利用用途は、「ミャクぺ!」ギフトに交換することや、万博関連のサービスや店舗での利用に限定されています」とのことだ。
つまり、EXPOトークンは、万博会場でそのまま使うことができるうえ、電子マネー「ミャクペ!」にギフトとして交換、つまりチャージできるので、万博の会場はもちろん、会場外でも「ミャクペ!」に連携しているVisaタッチ決済によって実際の決済に使うことができる。
「ミャクペ!」に交換するという手間は必要になるものの、ブロックチェーン上で発行されたトークンが、1トークン=1円として交換され、日常的な決済に利用できることは画期的なこと。万博という特別な機会を利用して、Web3普及に向けて、ひとつの突破口が開けたと言えるだろう。

また万博に来場する海外ユーザーに向けて、EXPOトークンはステーブルコインとの交換などの機能も提供するという。海外ユーザーにとっては、EXPOトークンを利用して万博会場のデジタルウォレットパークでの利用はもちろん、万博会場に来られない方はステープルコインに交換できる選択肢ができる。
このEXPOトークンからステーブルコインの交換も「ミャクペ!」起点で考えると、日本円をブロックチェーンに乗せ、ステーブルコインに交換することを意味する。谷川氏も「今までにない、かなり革新的な設定」と述べた。
「EXPO2025デジタルウォレット」に秘められた野望
「EXPO2025デジタルウォレット」は万博開幕前、ダウンロード数は20万にも届いていなかったが、4月13日の開幕以降、ペースは大幅に上がり、取材時点では約32万3000に達したという。
谷川氏は「キャッシュレス決済だけでは、ここまで広がらなかった。デジタルウォレットでの様々なサービスを組み合わせて利用することで、実際に万博会場を訪れたときにスペシャルな体験できるというワクワク感や特別感が大きい。また個人的には、皆さんが気づかないうちに、実はブロックチェーンを活用した新しいサービスを使っているというところが、とても面白いポイント。Web3/ブロックチェーンのサービスが身近で面白いサービスであるとハードルを下げるうえで大きな効果があるのではないか」と語った。
そして、来場者はブロックチェーンを意識していないが、「自分のSBTを見たときに、10桁以上の数字が付いていて、これは『何だろう?』というところから、世界でただ1つのデジタル資産を持っていることに気づく。一人ひとりの体験がブロックチェーン上で証明されていく世界がこの先、どうなるのかが楽しみ」と続けた。
HashPortの吉田氏は「EXPO2025デジタルウォレット」について、「金融コンソーシアムの中に事業連携領域を入れていただいたことで、Web3のいろいろな取り組みを通して、金融と非金融が連携できている。金融と非金融、つまり決済データと行動データの垣根を超え、新しいエンベデッドファイナンスの先駆けとなっているのではないか」と語った。

そして「非金融の動きと、EXPOトークンが決済アプリにチャージできるという金融の動きが1つのアプリの中で体現されていることは、まさに『未来社会の実験場』にほかならない」と述べた。
さらに「EXPO2025デジタルウォレット」について、次のように説明した。
「(SBTに関するところは)ノンカストディアル、いわゆるアンホステッド・ウォレットになっていて、秘密鍵はユーザーが持っている。ユーザーが秘密鍵を持っている限りはSBTにアクセスできる。極論すれば、万博が終了して、このウォレットがなくなっても、ブロックチェーン上の履歴はユーザーが管理できる」
HashPortは、万博終了後も「EXPO2025デジタルウォレット」は名前を変え、提供を続けていく予定だ。現在の利用率をもとに会期全体で約324万人の利用を見込んでいる。このまま推移すれば、暗号資産取引所に開設するカストディアル・ウォレット(口座)ではないノンカストディアル・ウォレット/アンホステッド・ウォレットとして、少なくとも日本では最大のユーザーベースを誇ることになるだろう。
谷川氏は大阪・関西万博でのWeb3の取り組みについて、「万博は “レガシーを残す” というコンセプトを掲げている。万博後にキャッシュレスがさらに普及して、現金を持たない時代が来るとか、Web3サービスが当たり前になっていることを描いている。協会が進めていると、万博の終了とともに終わってしまうが、万博後もサービスを運営いただく各プレイヤーにさまざまな取り組みを担っていただけることの意義は大きい」と述べた。
Web3やウォレットのマスアダプション実現に向けて、そしてHashPortにとって、大阪・関西万博「終了後」が大きな試金石になりそうだ。




|文・撮影:増田隆幸
※写真の中のQRコードには、不正取得防止のためモザイク処理を行っています。