アート×テクノロジーで拓く新たな文化支援の形──ワタリウム美術館で「Oriza」プロジェクトが始動

東京・渋谷の私立美術館「ワタリウム美術館」で、アートとテクノロジーを融合し文化的遺産の継承を目指すプロジェクト「Oriza(オライザ)」が始まった。第1弾では、世界で活躍する写真家・杉本博司氏とコラボレーションし、美術館の外観をモチーフにした作品「WATARIUM ART MUSEUM 2025」を25点限定で販売する。暗号資産(仮想通貨)による決済にも対応し、国境を越えたアートの支援と流通を促進したい考えだ。

5月19日に行われた記者発表には、プロジェクトを主導する館長の和多利恵津子氏、CEOの和多利浩一氏、そして発起人である袴田浩友氏が登壇。杉本氏も出席し、アートの意義や文化継承の重要性について語った。

〈世界的写真家の杉本氏。文化継承の重要性に共鳴し、無償でプロジェクトに参加した〉

袴田氏はネットショップ事業を展開するBASEの創業メンバーで、独立後は自治体と連携した文化財保護などに取り組んでいる。今回のプロジェクトは、現代アートの発信地として知られる同館に構想を持ちかけ、約3年かけて企画したという。

「Oriza」はラテン語で稲を意味する言葉に由来し、文化を未来へと耕し、紡ぐことを意図している。袴田氏は、現在の資本主義社会が「お金を払って終わり」という消費中心の状況にあることに課題感を持っていると述べ、支援や寄付といった公益的行動を評価できる仕組みが必要だと指摘。「どこに何をいくら寄付したか」という履歴をブロックチェーン上に記録することで、透明性の高い支援インフラの構築を進める考えも示した。

杉本氏はニューヨーク在住の写真家で、建築や伝統芸能の演出など多岐にわたる分野でも活動している。ニューヨーク近代美術館など世界各地の美術館に作品が所蔵されており、世界的な作家として知られる。

ワタリウム美術館は1990年に開館し、スイスの建築家マリオ・ボッタ氏が設計した。地上5階・地下1階建てで、大きく翼を広げたような左右対称のデザインとストライプの外壁が特徴。街のランドマークとして知られ、現代アートや建築、映像メディアなど多様な展覧会を開いている。

今回の作品は、同館の外観を杉本氏が撮影し、顔料インクを活用したピグメント加工を施したもの。直筆サイン入りで、価格は6000ドル(約86万円、1ドル144円換算)。ただ、開館35周年を迎え老朽化が進む同館への支援を目的に、購入には700ドル(約10万円)相当以上の支援金の支払いが必要となる。

〈作品は杉本氏の直筆サイン(右)入りで、桐箱に収められている〉

Shopifyで暗号資産決済、「貢献の可視化」を目指す

応募期間は5月26日から6月4日まで。専用フォームから申し込み、6月7日頃に行われる抽選で当選者が決まる。支援金入金後、ECプラットフォーム「Shopify」での購入が可能となり、Shopifyの拡張機能を用いることでビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)での決済にも対応する。袴田氏によれば、支援金・作品の購入代金ともに日本円、米ドル、暗号資産での支払いが可能だという。

日本では、国が指定する国宝や重要文化財だけでも年間300億円程度の予算が不足するとの試算もあり、アート作品など潜在的な文化資産の存続も危ぶまれている。袴田氏はこうした背景を踏まえ、海外からもシームレスに支援できる仕組みを整え、将来的にはブロックチェーンを活用した「貢献の可視化」を実現したいと述べた。

〈ブロックチェーンを活用した寄付活動の可視化を目指す袴田氏〉

今後は第2弾として、他の私立美術館や異なる作家とのコラボレーションも予定。複数の文化施設を巻き込みながら、支援のネットワークを広げていく構想だ。

アートの価値とテクノロジーの力を結びつけ、文化支援に新たな形を提示するOrizaプロジェクト。今後の展開にも注目が集まる。

|文:橋本祐樹
|トップ画像:左から和多利恵津子館長、プロジェクト発起人の袴田浩友氏、写真家杉本博司氏、和多利浩一氏